2020年7月某日、映画『劇場』を75歳の母と観た時のおしゃべりの記録です。ほぼ主役の2人のみ、部屋で繰り広げられる話で退屈しないだろうかと思いましたが、それなりに楽しめたようでした。
『劇場』
日本/2020年7月17日
監督:行定勲
脚本:蓬莱竜太
主演:山﨑賢人、松岡茉優
原作:又吉直樹『劇場』
あらすじ
高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。
そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。
女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。お金のない永田は沙希の部屋に転がり込み、ふたりは一緒に住み始める。
――引用:映画『劇場』オフィシャルサイトより
沙希は自分の夢を重ねるように永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女を大切に思いつつも、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していき―。
マミさんガイドライン
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今回の事前リサーチ:原作は未読。劇場と配信両方で公開中の話題作だったため、Twitter検索で感想がたくさん見つかった。あとはいちおう公式サイトをさらいました。
登場人物は多すぎないか?
俳優の数が多くなく、観た人のレビューによると彼と彼女の2人だけで話が進むらしい。とてもよいが、かえって退屈になるだろうか。
構成が複雑すぎないか?
少々の回想シーンが入るくらいで十分クリアできるだろうと予想。
事前知識がなくても楽しめるか?
スマホのアプリが恋に重要な役割を果たしたりすると説明が必要だが、又吉さん多分そういうのしない気がする(なんとなく)。
露骨すぎる暴力描写はないか?
鑑賞した人のツイートで軒並み「ダメ男」「クズ」と形容されていたので、まさか彼女をめちゃくちゃ殴るとか……と若干の不安はある。DVシーンがあるとしてもこの主演俳優(山﨑賢人、松岡茉優)で生々しい描写はしないのでは……とも思う、長々とはっきり映す感じでないことを祈る(DVがある前提になってしまった)。※結局ありました
お母さんはこう思ったようです
――いかがでしたか、又吉先生の第二作。
「又吉さんが恋愛小説ってなんだかイメージできないなって思ってたけど、そうかあ、恋愛モノって、なるほどねえ、こういうねえ」
――恋愛ものっていうか、ダメ男ものですよね。
「それ。”だめな男”を書くのが上手いなって。前のアレも、だめな男のだめなところがすっごく良かったんだよねえ。あれは良かった。(神谷さん[1]又吉氏の第一作『火花』をNetflix版ドラマで波岡一喜が演じた神谷という人物が母のお気に入りですのことだね?)そうそれ〜。本当によかった!
〈しばらくドラマ『火花』の話に時を費やす〉
いやほんとにあれは最高。でも、前のダメも今回のダメも、又吉さん本人が自分のことを書いてるわけじゃないんだろうなと思うんだけど」
――プライベートはわかんないけど、芸人としての又吉さんっぽさは徳ちゃん[2]『火花』の主人公。Netflix版ドラマでは林遣都が演じただったね。
「そうよね。てことは、だめな男のそばにいるのが又吉さんなのかな、だめな男が好きっていうか、愛しちゃうのかな。好きだから書きたくなるのかな。又吉さんの相方さんも違うタイプのダメなひとって感じじゃない? しょうがないなあって思わせる人というか……」
――うん、芸人さんの世界、そういう男の人多そうだよねえ。しょうがないなあ、の人。
「一発ドカンと当たれば、それまでだめと呼ばれてたところも面白い、すごい、になるのにねえ。売れる人って本当に一握りなんだろうね、私が知ってるような人っていったら、たとえ『最近見ないね』とか『なかなか売れないねえ』とか言ってても、全体で見たらトップクラスなんだろうね。一度テレビに映るだけで大変なんだろうね……みんなよかったねえ、本当によかった、かまいたちよかった[3]かまいたちのツッコミ濱家さんのことをお母さんは大好きです……〈しばらくかまいたちの話に時を費やす〉」
ここからストーリーに関するネタバレが含まれます。
観る前に知りたくない人は読まないようにしてね。
ラストシーンについて
「最後のあの演出はどういう意味なのかな。それなりにお客さんを呼べて舞台に立って、あの子が見てるって、結局あの男の子はそれなりに演劇の世界で成功しましたってことかね……しなくてもよくない?」
――あはは(笑)。あのままうだつ上がらず。
「うん。彼女と別れたのち、あのよっわ〜い心のまま、時の流れるまま、中年に。ちょっと山崎賢人だと美しすぎて想像できないけど」
――仕事とかはどうします?
「人の紹介で普通の会社で働いてみたら、デキるわけではないけども案外つとまり、日々を過ごすまま淡々と中年に……だって、なんかあれで結局は成功して若い日の苦い恋の思い出って、泣かせた女もいたもんだって、でも成功した俺をちゃんと見てくれているのでしたって、そういうの、なんか……昔っからよくあるおじさんの夢じゃん!」
――ああ〜確かに、若くない男の人のナルシシズムの中で心地よくまとまりました感あるかもね。
「太宰治になりたいおじさん……」
ーー大宰になりたいおじさん、怖いな。
「いるのよ!それも、そこそこいい年になっても……いい年ったって30や40じゃないわよ、60でも70でも80でも、ひとりでじめじめしてんの。夢から覚めるってことがないのよ」
——そういえばむかし、乗ったタクシーの運転手さんが延々と若い頃の恋愛の話をしてきて降り際に「僕は恨まれているでしょうね(うっとり)」ってわたしに言ったことがあったよ。ご満悦って感じで、気分わるかった…。
「ウワァ……そのジジイ、絶対に死ぬ間際までその話繰り返すね」
――臨終恋バナ爺、怖いな。あれ客席の沙希ちゃんの心の中の劇場っていうか、彼女にとってこの恋は本当に幕が下りました、かつて心に描いた未来ではこんなふうに席が埋まり拍手が降り注いだものであったけれども、今や何もかもが終わりました、っていう解釈はどうですか。
「劇は終わった、帰ろう、っていう。そうね、帰らないといけないからね……電車に乗って夕飯の材料買って、家に帰らないといけないわけよ。昔は女三界に家なし、なんて言ったけど、帰らないわけにはいかんのよ。捨てるべき理想は捨て、捨てるべき男は捨て……」
――捨てにくいですね、男。
「最初から拾わなければよかったと思っても、後の祭りですね。まあでも、学びはあるから。学びがあることもあるから。まれに」
『この人たちやりました』
――火花もだけど、ベッドシーンが一切ないとこがわたしは好きだな。
「そうね! あのね、ドラマとかいらんラブシーンが多いと思う! それほんとにやった甲斐あったと思う〜!? っていうのが! サービスのつもりかもしれないけど、私はいらんのよね。いろんなドラマがあるのに、同じようなやり方っていうか、取ってつけられたようなっていうか、大した甲斐がないみたいに見えるのよ。そのものを映すならそれなりの意味がないと、『この人たちやりました』しか分からん濡れ場は見てて無理だしこっちがいたたまれなくなるのはちょっと……それはね、ずっと思うわ」
――ないからって別にプラトニックな関係とは解釈しなかったもんね。
「不自然じゃなかったよね。適当に遊んでるってとこもちゃんと伝わったし、この子若いのにたたないのかな? とか思わないわよ、もうあれでいいのよ。この雰囲気じゃない作品でやろうとしたら難しいのかもしれないけど」
――ブロックを持って帰ってくる、で他の人との肉体関係を表すのわたしすごい好み。
「もうこれからはそうしよう。ブロックを映そう」
――セックスを映すな、ブロックを映せ(笑)。
沙希ちゃんという女の子
――ネットのレビューとか見てたら、沙希ちゃんがあんまりにも自分がない子で怖かった、最後壊れちゃった、って人もいたんだけど、わたしはあんまりそうは感じなかったんだ。
「ちょっと忍耐強いところのある普通の子だよね。いい子。意外と地に足がついてるんじゃないのかな、一旦お酒にいっちゃうのとかも、かわいそうだけど人として普通の弱り方というか、あることよね。ああいう局面で酒にあたるものがなくて、却ってちょっと大変なことになるって場合もあるし」
――依存そのものではなく依存の先がひとつしかないのがよくないといいますからね。
「まあ実家のお母さんは心配しただろうけど。娘の彼氏はいなくても心配、いても心配、定職ないのが一番心配。でもわりとすぐ立ち直れたんじゃないかね。あの子田舎から出てきたんでしょ? 夢も理想も、打算っていったら言い過ぎかもしれないけど、あの子なりにあったんじゃないかな。幸せだなーって実感したときもあって。でも東京育ちの娘さんだったら、もっと早くにもういいやってなっていたかも。いや、んなこと言ったら彼氏の見た目があんな素敵でなければとかになっちゃうけど」
――まあそれ言っちゃったらもう。
「でもあのー、怒るところとかちゃんとしてたよね。あれは大事よ。あれができないときついよ。なんでもいいから、爆発でもいいから、感情を表に出すの」
――『あなたは私をほめてくれたことが一度もない』って言うところ。
「あそこよかった! 長い間静かにこつこつ溜まったたものを溢れさせたとき、ああいうふうになるもん」
――ちょっと笑いながら言う感じとかね。
「うん。男が物投げて暴れても、案外もう普通でいられるな〜って、自分でも一歩退いて思ってる感じとか。何度も見慣れちゃったせいでね。あの女の子上手だよね、誰ちゃん?……マツオカマユちゃん? 前にも見たことある……か、な?」
(観ているはずの『勝手にふるえてろ』の話をする)
「んぁ〜〜? ……あ、観たっぽいな〜。んん……観た気がする!あの子どんどん出てほしい。若いけどちゃんとお芝居できる人たちがやったから、可愛い青春の夢って感じの映画になった気がする」
そのほか、目にとまったところなど
「えーとあの子、あの別れてあげてって言ってくる女の子。あの子『別れてあげて』って言う役、似合うね〜。鼻につくけど常に正しいことを俺に言ってくるけど正しいので鼻につくけどずっと付き合いのある女友だち、似合うね〜。なんかよく見かけるね?」
――あの子はね、伊藤沙莉ちゃんといいます。オズワルドの伊藤さんの妹さん。
「……ああ!それ、前にも聞いたね!(得意げな笑み)」
――ちなみに山﨑賢人が嫉妬していたよその劇団の同い年の人は、King Gnuの人です。
「キングヌー? なにそれ? また新しいバンド? やっと米津…なんとかくんを覚えたのに」
――(YouTubeでかまいたちがKing Gnuを歌った回の話をする)(マミさんはこれで爆笑していた)
「あは〜!見た見た知ってる!あれの元の歌の人なの? 本職はどっちなの? 歌なの? 最近の人ってなんでもやるのね、そしてできるのね。曲を作って、楽器弾いて歌って、踊る人は踊って、演技までさせられて……多才な若者が多くてびっくりするわ〜大したもんだわあ。山崎賢人くんもよかったね、ほっとけなさがあっていい感じだった。いいわねえ、才能ある若者って。これ若い人しか出てこない映画だったね、画面が爽やかだった、ぜんぜん爽やかな話じゃないけど。むしろじめじめしてたけど。
若い役者さんみんながんばってほしい、あんまり会社に働かされすぎないでさ、ごはんしっかり食べてほしいわ、ほんとゆっくり生きてほしい、人生先は長いからね、疲れるから」
まとめ
主要な人物の少なさ・見分けやすさ
ほぼ2人で進む話なので文句のつけようがない。と思いきや、寛一郎と浅香航大が一瞬だけごっちゃになった。この少人数でまさかの事態。身長がほぼ同じだからでしょうか。
飽きてなかった?
全編通して大騒ぎや大乱闘や急展開や手に汗握るクライマックスのないタイプなのでどうかなと思ったが、後半に1、2分うとうとしかけただけだった。なかなか優秀。
予備知識のいらなさ
下北沢や小劇場の演劇の独特な雰囲気がわからないとあれかな?と思ったが、「ああいう感じは昔にもあったと思う、ただ全然下北沢じゃなかったけど。下北沢という土地がこんなに開けて若者の街になって有名になったのは最近の話」ということです。ただマミさんの『最近』、30年くらい幅があるからな。
余談
半月後、『MIU404』(マミさんどハマり名作ドラマ)に井口さんが出演。「この人のこと覚えてる?」ときいてみたところ、覚えていないとのことでした。「ほらあのこないだ見た又吉さんの映画の、山崎賢人が嫉妬する別の劇団の脚本家をやった人だよ」と教えると「んーはいはい、なんかあったような気もするわ。けど忘れたわ」だそうです。さすが忘れるの早い。がんばれKing Gnu。
