映画『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』を76歳の母と観た時のおしゃべりの記録です。ミュージカル仕立ての映画は普段そこまで好まない母ですが、本作は主人公のお母さんの視点で観てしまったようで、ちょっと涙ぐむほどでした。
『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』
製作国:アメリカ
公開日:2021年11月12日
監督:リン=マニュエル・ミランダ
脚本:スティーブン・レヴェンソン
主演:アンドリュー・ガーフィールド
あらすじ
1990年、アメリカ・ニューヨーク。30歳を目前にしたジョナサン(アンドリュー・ガーフィールド)はダイナーでウェイターとして働きながら、ミュージカル作曲家になることを夢見ていた。ロックミュージカルの楽曲に何年も取り組んできたが、恋人のスーザン(アレクサンドラ・シップ)は新たな夢のためにニューヨークを離れることを願い、ほかの仲間たちも夢を諦めようとしていた。
シネマトゥデイ
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今回の事前リサーチ:公式サイト、Filmarks、映画.comのレビュー、Wikipedia、原作者ジョナサン・ラーソンのWikipedia(日本語・英語)、ミュージカル『RENT』のWikipedia。かなりいろいろ見ました。
登場人物は多すぎないか?
映画.comのキャスト欄を見たところ、役名付きで紹介されているのが2人なのでこれは行けると確信。
構成が複雑すぎないか?
わからない……が、ミュージカル仕立ての作品で時間軸が複雑なことはあんまりないんじゃないかな。
事前知識がなくても楽しめるか?
実話をもとにしている点を伝えるかどうか迷ったが、作品内でそのような構成になっていたため、しっかり伝えた。
露骨すぎる暴力描写などはないか?
創作に行き詰まった主人公が彼女を殴ったりしませんようにと祈りながら観る。(まったく大丈夫でした!)
お母さんはこう思ったようです
――楽しかったけど、実話だと思うとつらいよね……。
「なんかさ……創作をするって、あんなに、あんなに大変なのね……。こういう、夢を追いかける若者のつらい話、みたいな映画って、両親に反対されてたり勘当されてたりっていうのはよくあるじゃない、あとあれ、貧乏。貧乏でお金がなくて食えなくて貧乏な話」
――そうねえ(笑)。
「途中で実家のご両親みたいな人たちが映ったでしょ、観に来てくれて、ああ応援してくれてるんだ、それはこの子恵まれてよかったねって思ったんだけど、あんな苦しみを我が子がしていると知ったら、あの子のお母さん、もう今すぐやめて帰ってきなさいよって言いたくなって胸が潰れそうな思いをするだろうなと……」
――出た、主人公の母に感情移入。
「もう、今度からよりいっそう、作家とか脚本家とかやってる人のこと尊敬する。なにもないところから作品を作るって本当にすごい」
説明が必要だったところ
ご質問その1「バークシャーって会えないくらい遠いの?日本でいうと?」
とっさに「栃木?仙台? わからん……なんか、すごい田舎じゃないけど山のほうかも……??」と答えてしまった。「とりあえず山ね」と納得はしていたが、ちゃんと教えてあげられず。
ご質問その2「ダイナーとは?」
「大都会の大衆食堂」と答えた。「日本のファミレスよりもっと色々な人が来て楽しそう。え、お酒も出すの!さすがアメリカ」とおどろいていた。
ご質問その3「チックチックブーンって、何?」
「日本で言うと、チクタク…どかーん!って感じ」とお伝えしました。「知ってる!アメリカはコケコッコーじゃないんでしょ?」といきなり得意げ。
それからフレディが倒れた時、病気がHIVであるというのはこれだけでは分からないかなと思い、説明しました。「去年だけで友人のお葬式が3度も」のところで怪訝な顔をしていたので、(都会では自殺する若者が増えているってこと…? とはいえそんなに!?)と思っているかも、と。
現在では治療法も確立して、こんなに若くして命の危険がある病気ではなくなったけれど、それはこの映画からもうしばらくあとになること、映画に描かれる90年前後だとHIV感染の予後も、患者、同性愛者に対する社会の差別も現在よりさらに苛烈であったことなどを話しました。
ここからストーリーに関するネタバレが含まれます。
観る前に知りたくない人は読まないようにしてね。
創作は辛い、米津は偉い
――わたしあのシーンの演出好きだったな、あの、プールの底に…
「わかる!あそこすごくよかった!芸術家が閃くときの感覚なんて分かりようがないけど、あんなふうに表現されたらなんとなくだけど、ああ、そんな感じなんだ、って思える感じで。他の人からは絶対に分からない、本人だけ見えるなにかがあるんだね……って」
(あのシーン…… 曲を作るタイムリミットが迫り、さあいよいよ書くぞ、という時に恋人と、そして親友と売り言葉に買い言葉、最終的には自分を責めざるを得ない大ゲンカをしたうえ、アパートの電気を止められてしまった主人公。半ばヤケのように泳ぎに来たプールで、底にある『30』の表示が幻覚のように変化し音符が浮かび上がる)
――長かったねえ、あそこまでねえ……。
「締め切りがある仕事の人たちみんな泳ぎに行ったらいいんじゃない?流行るんじゃない?(笑)」
――泳ぐだけではダメかもしれない、電気を止められてないと(笑)。
「彼女を怒らせてないとだめか……しかも、あの、本当にしょうもない、よくある、男って本当にそれ〜〜みたいな怒らせ方。古今東西あの手のケンカというか破局というか、あるんかね。わかるけどね……わかるけど」
――ひと作品つくるたびにあんな大惨事が起こってたらたまったものではありませんね。
「ですね。でも芸術家と同じくらい芸術家の家族とか大変なのかもしれないわ。なんか、文豪の家族とかが死後に本とか出して、もうどうかしてたりするし。本人も辛い、まわりも辛い、なんで創作なんかするのかしらね人間という生き物は…」
――ライブハウスの楽屋の壁に穴が開いてたって友だちも言ってた。バンドのけんかは大変だって。
「そうでしょう〜、はぁ〜、ねえ。でもバンドと言ってもスピッツはそんなひどいことはしない」
――え、突然のスピッツ(笑)。まあ、それは確かにそうですが…。
「けんかしてでも音楽を作って歌って演奏するのは偉いわ。私の時代はバンドって言っても、あのー、グループサウンズだったけど……なんか、お化粧して髪の毛を立ててた男の子たちも偉いし、小室哲哉もしんどかったんだろうと思うわよ。そんで今の人は本当に何もかもを自分でやって、曲を作って楽器を弾いて歌を歌って、表にも出るだなんて、しかも踊ってる人までいるし、なんなのかしらね。すごすぎ。米津玄師は偉い」
――米津玄師。
「最近また米津玄師ではない別の人がいるのは把握してます」
おそらく藤井風のことと思われる。
マミ氏にとっての日本の音楽シーンは「グループサウンズ→ヴィジュアル系→TKファミリー→米津玄師」であることがわかった。
人生は長い……はずなんだけど
「最初はね、そんなに急がなくていいじゃない、30歳にこだわることないじゃない、まだまだ先は長いんだから、って思って観てたのよ」
――そうだよね、わたしもそうだったよ。
「でも、30歳なんてまだ若い、けど、この人は35歳? で亡くなってしまったわけでしょう……成功した、って実感は持てたのかしら?」
――初日の朝に亡くなってしまったっていうから、どうなのかな、お客さんの拍手聞きたかっただろうなとは思うけど……。
「そうなのね……かわいそうに、本当にかわいそうにねえ……だからさあ、お母さんはどんな気持ちだったかって思うと、もう……やっと報われたはずだった息子の、晴れ舞台が見られると思った日がお葬式だなんて、どんな気持ちで……うう……それに、お友達もよ、あの黒人のお友達だって、自分の死はいろいろ考えたと思うし、そりゃあ辛いことだけど、ゲイじゃないけど友達になってくれて、差別の世の中でも仲良くして支えてくれた幼なじみが先にだなんて。どんなことがあってもそばにいるって言って夜遅くに訪ねてきてくれたのに……騒がしいけどいい友達、大の親友だったのに……」
――Wikipedia見たらね、マイケルのモデルになったのかなって人はいたの。『高校時代からの大親友がゲイでHIV陽性だったり、』ってあったから。ジョナサンの作ったものが後世まで残ることは、お友達たちにとっても希望だったと思うし、それはその通りになったとは思う。
「そうなんだ……(iPadでジョナサン・ラーソンについてのウェブサイトを見せる)え、これが本物?似てる!さっきの役者さんそっくりじゃない!歴史上の人物とかじゃなくて最近の人を映画にするんだったら、面影のある人だと嬉しいかもね、生前のその人を知ってる人はね。(アンドリュー・ガーフィールドの他作品の写真を見せる)え、うそ、そうでもない。なんで?寄せがすごいってこと?………ホェ……音楽家も劇作家もすごいけど俳優もすごい……全員すごい。今日はそれです。疲れた」
そのほか印象に残ったところ
☆マイケルの俳優さん、なんだか親しみあるお顔なのはどうしてかしらね、どこかで見たことある気がする、絶対どこかで何度も見てるのでは?(調べたけど分からず)そう?じゃあ知り合いに似てるとかかな……。
☆彼女役の人かわいかった。黒人の女優さんってたくましくて強い戦う女!のイメージあるけど、いろんな子がいるわよね。そうね、私の時間は『天使にラブソングを…』で止まっている。
☆ローザさん最高。ああして若者を叱咤激励という名のメッタ打ちにし、厳しく温かく見守るエネルギッシュおばあ、いいよね〜。
☆アルバイトの歌おもしろかった!そうなのよ、「家で食べればいいのにお金を払ってまで来る」なのよ!(母も若いころ飲食店で働いていたのでツボだったようです)
まとめ
主要な人物の少なさ
映画.comのキャスト欄を信じて正解。
主要な人物の見分けやすさ
ほとんど完璧。
飽きてなかった?
ミュージカル仕立てのものはあまり得意でないマミ氏だが、ストーリーがよく引き込まれたようです。
予備知識のいらなさ
鑑賞前後どちらもいろいろ説明する時間はあったものの、難しい話ではないので無問題でした。
